Vol.68 (H28年6月)
鼻をつまんでガムを噛んでみて下さい。普通に鼻から呼吸している人であれば,息苦しくなってきて,思わず口をあけて,口で呼吸しながら噛むことになると思います。いつもと変わらず噛める,という人がいれば,そのような人は,いつも口をあけて噛んでいる,口から呼吸しながら噛んでいる,など習慣性の口呼吸が疑われます。
最近の研究によると,口呼吸の人も鼻呼吸の人も,同じ回数噛んだ場合は,同程度食べ物を咀嚼できること,しかし同じ回数噛むのに,口呼吸の人は鼻呼吸の人より時間がかかること,が報告されています。口呼吸の人は呼吸をするときに噛む動きが止まるため,同じ回数噛むのに長時間かかるのだと考えられています。この結果を逆に考えると,時間をかければ,口呼吸の人でも,鼻呼吸の人と同じくらいしっかり咀嚼できるということです。しっかり噛んで食べるということは,胃への負担などを考えても重要なことですので,鼻がつまっている時などは,いつもより時間をかけて食事をした方がよいのかもしれません。
ただ,できるだけ鼻から呼吸する,という意識も大切です。鼻の呼吸抵抗が大きい時に口呼吸になるといわれていますが,鼻の呼吸抵抗は安定しておらず,常に変化していますので,自分は鼻がつまっているから口でしか呼吸できない,などと決めつけるのではなく,できるだけ鼻で呼吸しようと努力した方がよいと思います。鼻をつまんでも,いつもと同じようにガムを噛める人は,まず,いつも口を閉じて噛むように意識してみるとよいかもしれませんね。
Vol.69 (H28年8月)
舌を前に出して,上下の前歯で舌を噛んだまま,つばを飲み込んでみて下さい。なんだか飲み込みにくくないですか?通常,飲み込むときには,舌を上あご(口蓋)やのどの方に押しつけるのですが,舌を前に出すとその舌の動きが難しくなるため,飲み込みにくくなるのです。
実は,普段からこのように舌を前に突き出す特異的な飲み込み方をする人がいます。矯正歯科の分野では古くから,舌を前に突き出して飲み込む人がいることが知られており,この舌の動きが歯並び・かみ合わせに影響する可能性がある,といわれてきました。近年は,飲み込み方についての研究が進み,舌を前に突き出す飲み込み方は,誤嚥する可能性が高くなることがわかってきました。矯正歯科と飲み込み方の研究では研究対象が異なるので,矯正歯科で問題となっている舌を前に突き出す飲み込み方の人が誤嚥を起こしやすいのかどうかはわかりません。しかし舌を前に突き出す飲み込み方の場合,若いうちは飲み込めても,歳をとって神経や筋肉が衰えてくると,本当に飲み込みにくくなる可能性はあると思います。
そこで,歯並び・かみ合わせのためにも,誤嚥せずにきちんと飲み込むためにも,舌を前に出さずに,上あご(口蓋)につけて飲み込めるようになることが大切です。当院では,舌を上あご(口蓋)につけて飲み込めるように,皆さんに練習してもらっています。歳をとってから新しい動きを身につけるのは大変なので,できるだけ若いうちに舌を上あご(口蓋)につけて飲み込む動きを身につけておきたいところです。
Vol.70 (H28年10月)
食事の時には,食べ物を噛みます。いったい何のために噛むのでしょうか?食べ物を噛み砕いて,飲み込みやすい状態にするため,という声が聞こえてきそうですね。確かにその通りです。例えば,キュウリなどの野菜を口に入れてそのまま飲み込もうとしても,それは難しいので,歯で噛み砕いて飲み込みやすい状態にしているのです。
では,キュウリを包丁で小さく切り刻めば,噛まずに飲み込めるでしょうか?ミキサーなどでとても細かくすれば,噛まずにそのまま飲み込めるかもしれませんが,包丁で切り刻むくらいでは,そのまま飲み込めそうもありません。しかし口は,ミキサーのように激しく動いているわけではなく,どちらかと言えば包丁で切り刻むようにモグモグ動いているだけです。それで飲み込めるようになるって,考えてみたら不思議です。
実は食べ物を噛んでいるときの口の中では,食べ物を歯で切り刻むとともに,唾液と混ぜ合わせる,ということも行われています。歯で切り刻んだ食べ物を唾液でつなぎ合わせ,飲み込みやすいように一塊にまとめているのです。歯で噛み砕かれた食べ物は,ミキサーを使ったほど細かくなっておらず,包丁で切り刻んだ程度にしかなっていないのですが,唾液と混じり合うおかげで,飲み込みやすくなっているのです。
食べ物を噛んでいるときに,「今,口の中はどうなっているのだろう?」と,ふと考えてみると,おもしろいと思いますよ。
Vol.71 (H28年12月)
矯正していないのに歯並び・かみ合わせがきれいな人を見て,うらやましく思ったことはありませんか?悪い歯並び・かみ合わせになってしまう人が多い中,どうして自然にきれいな歯並びになる人がいるのでしょう?
近年,どのように悪い歯並び・かみ合わせができていくのだろうか?という研究が少ずつ行われています。そんなの遺伝ではないのか?と思われる方もおられると思います。確かに顔立ちは両親に似ますので,歯並び・かみ合わせも両親に似ます。しかし,人類学的研究によると歯並び・かみ合わせの遺伝は1
/ 3程度で,残りの2 / 3は環境要因によるとされています。環境要因とは,母体内にいる時から,産まれた後,今に至るまでの,歯や顎の周囲環境のことです。例えば,母乳の飲み方,離乳食の食べ方,普段の姿勢,口からの呼吸など,いろいろな事柄の毎日の積み重ねが,環境要因となって歯並び・かみ合わせに影響を与え,どのような歯並び・かみ合わせになっていくのかが,決まっていくということです。
そこで,成長中の歯や顎の周囲環境を整えることで,ある程度,悪い歯並び・かみ合わせを予防できるかもしれません。しかし,完璧な子育てというのはありませんので,成長中の歯や顎の周囲環境を完璧に整えるのは難しいと思います。また,近年の研究では,早産が臼歯部交叉咬合のリスクを高める,との研究報告もあり,対応の難しい環境要因もあります。したがって,完全にきれいな歯並び・かみ合わせを目指すのではなく,できる範囲で周囲環境を整えて,少しでもきれいな歯並び・かみ合わせに近づけるようにできればよいのかな,と私は考えています。
Vol.72 (H29年2月)
歯並び・かみ合わせは,遺伝要因と環境要因によってできていきます。遺伝要因とは,子どもの顔は親に似るように,歯並び・かみ合わせも親に似るというものです。環境要因とは,歯や顎など口の周りの環境のことで,例えば,頬杖(ほおづえ)を頻繁についていると顎はゆがんで成長しますし,舌がよく前に出ていると前歯がかみ合わない状態になったりします。このように,口の周りの環境によって歯や顎に力が加わると歯や顎が動き,歯並び・かみ合わせが変化する,これが環境要因です。
実は,矯正装置も環境要因のひとつです。矯正装置を使って歯や顎に力を加えて,歯を動かしたり顎の成長を促したりしているのです。例えば,頬杖(ほおづえ)で顎を押すのと同じような感じで,矯正装置で顎を押して顎の成長をコントロールすることがあります。また,舌の好ましくない位置や動きを改善するために,舌の動きを制限する矯正装置を使うこともあります。この装置は,矯正装置自体で歯や顎に力を加えるのではなく,舌の環境を整えて,舌による歯並び・かみ合わせへの影響を改善するために使うのです。
上記のように,矯正歯科治療では環境要因を整えることが大切です。環境要因を整えるために,矯正装置を使ったり,口の練習をするのです。当院では,舌を上あご(口蓋)にしっかりつけられるように,とか,奥歯でしっかり噛めるように,とか,コップから飲む時に気をつけること,など,口の環境要因を整えるために,たくさんの指導をしています。どれも,環境要因を整えるために大切なことばかりですので,一緒にがんばっていきましょうね。
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