Vol.25 (H21年4月)
人間は,鼻からも口からも呼吸できます。サルは,鼻からしか呼吸できません。サルの鼻を急にふさぐと,息ができなくて死んでしまうのです。しかしサルの鼻を少しずつふさいでいき,口から呼吸する方法を教えてあげると,サルも口から呼吸できるようになります。
歯科矯正学の分野では,サルに口から呼吸させた場合,どのような歯並び・かみ合わせになるのか,という研究が昔からたくさん行われています。結果として,鼻を完全にふさいで,口からしか呼吸できないサルは,受け口になる傾向を示す場合が多いようです。このサルの研究結果が,そのまま人間に当てはまるわけではありませんが,口からの呼吸が,歯並び・かみ合わせに何かしらの影響を与えるのはまちがいないようです。
人間は,運動すると鼻からだけの呼吸では空気が不足するため,無意識のうちに口からも呼吸しています。風邪をひいて鼻がつまると,鼻の空気抵抗が増えるため,無意識のうちに口から呼吸しています。無意識のうちに鼻の不足分を口で補っているのです。鼻の中は曲がりくねっているため,鼻からの呼吸は抵抗が大きく大変で,口から呼吸した方がずっと楽なはずなのですが,なぜか,鼻がメインで口が補助の役割となっています。なぜ,このような役割になっているのかはわかりませんが,人間の口は食べることをメインに,鼻は呼吸することをメインに,お互い補いながら機能するように,と神様が考えて創ってくださったのでしょうね。
Vol.26 (H21年6月)
食べ物を食べるときには,栄養のバランスを考えますよね。確かに,食べ物によって含まれる栄養素が異なりますので,バランスが偏らないように食べることは大切です。できればその上,食べたものがしっかり消化され,体に吸収されるようにすることも考えたいものです。
口での味わいによって,消化・吸収に違いがあることが,これまでの研究で明らかにされています。例えば甘いものが口へ入ると,膵臓(すいぞう)から消化液の一種である膵液(すいえき)がたくさん出ます。しかしチューブなどで胃へ直接甘いものを注入しても,膵液はほとんど出ません。口で味わうことが消化液の量に大きく影響しているのです。また,本来好まれるはずの砂糖を人為的に嫌いにさせたイヌの場合,糖分の体への吸収が著しく低下したという研究報告もあります。食べるときの快適さが,体への吸収にも影響しているということです。口で十分に味わって快適さを伴って食べることで,効果的に消化・吸収されるということです。
「口で十分に味わって快適さを伴って食べる」ためには,口の健康が欠かせません。もし歯が痛ければ,味わう余裕もなければ,快適に食べることもできませんからね。健康な口で食べるということは,食べ物の消化・吸収にも重要な役割を果たしているのです。
Vol.27 (H21年8月)
「よく噛むようにすれば,歯並びはよくなりますか?」という質問を,時々受けます。確かに,よく噛めば,歯に加わった刺激が顎骨に伝わり,骨の形に影響を与えるかもしれません。しかし,歯並びがよくなるくらい顎骨が大きくなるかといえば,そんなことはありません。残念ながら,よく噛んだからといって,ガタガタした歯並びがきれいになることはないのです。
近年の研究で,噛む力が強いタイプの骨格の人は下の奥歯が直立しており,噛む力が弱いタイプの骨格の人は下の奥歯が内側(舌側)に倒れていることが明らかにされています。歯は内側(舌側)に倒れているより直立している方が,歯列にすき間ができやすいので,噛む力が強いタイプの骨格の人の方が,きれいな歯並びになる可能性は高いのかもしれません。しかし,骨格はある程度遺伝的に決まっていますので,よく噛んだからといって噛む力が強いタイプの骨格になれるわけではありません。顔の形は両親に似てきますからね。もちろん,よく噛めば,遺伝の範囲内で噛む力が強いタイプの骨格に近づくことはできると思いますが。。。
このように,噛むこと自体は歯並びにあまり影響を与えません。しかし,よく噛むことで,かみ合わせはしっかりしてきますし,唾液(つば)が口の中を循環してむし歯や歯周病の予防になります。何より食べ物の消化吸収のために,よく噛むことはとても大切です。いろいろな種類の食べ物を,しっかり噛んで食べるように心がけたいですね。
Vol.28 (H21年10月)
食欲の秋です。皆さん,ブドウは好きですか?「種のないものは好きだけど,種があるものはちょっと。。。」と言われる子どもさんの声が聞こえてきそうです。口の中で,種と実を分けて食べるのって,実は,なかなか難しいことなんです。
「食べる」という行為は,普段,なにげなく行っていますが,生まれた後で少しずつ身につけて,上達していく機能です。いろいろなものを食べる経験が無意識のうちに食べる練習となり,なんでも上手に食べられるようになっていくのです。ブドウを食べるときには,歯で実を噛みながら,舌を駆使して種を取り除くという,なかなか高度な口の機能が要求されます。従って,生まれて初めてブドウを食べて,上手に種を出せる人はほとんどいないでしょう。また,小さな軟らかい種は,そのまま実と一緒に噛んで飲み込むか,出して食べるか等も,それまでの経験に影響されてきます。食べる経験をたくさん繰り返していくことで,「この程度の種なら食べられる」「これは出さなくてはいけない」という機能を身につけていくのです。このような食べる経験を通して,歯や舌などがしっかり使えるようになり,口が健全に成長していきます。
近年では,種なしブドウなど,品種改良が進んで食べやすい食品が増えてきています。文明が進み,便利な世の中となり,全ては人間が進化していく過程なのでしょう。しかし便利すぎて,口を含めて人の体自体は逆に退化していっているような気がします。これからの時代,何がよいのかわかりませんが,私自身は,やはり本当においしく食べられるように,歯や舌がしっかり使えるようになってほしいと願っています。
Vol.29 (H21年12月)
あなたは「いびき」をかきますか?寝ているので,自分がかくのかどうかはわかりませんよね。では,他人のいびきを聞いたことありますか?これは誰でも1度や2度はあるでしょう。いびきって,自分では自覚がないのに,寝ている間に,知らず知らずのうちに他人に迷惑をかけているかもしれない,不思議な音です。
いびきは,気道(のどの空気の通り道)が狭くなり,息をしたときに,その部分が振動してでる音です。上下のくちびるをしっかりくっつけて息を吐くと,「ブッ」と音がでますよね。そんなイメージです。ただ,いびきの場合,多くは吸うときに音がなります。眠ると,のどのまわりの筋肉がゆるみ,息を吸う時にのどのまわりが引き寄せられ,気道がさらに狭くなってしまうためです。気道が完全に塞がると,いびきは止まります。これが睡眠時無呼吸です。こうなると窒息してしまうのでは?と心配されますが,普通は脳が短時間目覚めて,気道を拡げるように筋肉に指令を出しますので,問題ありません。ただ,これが夜中に頻繁に繰り返されると熟睡できませんので,昼間に強い眠気がおそってきたり,頭が重くて集中できない状態になったりします。また,無呼吸のため酸欠となり,心臓に負担がかかってきます。
睡眠時無呼吸の治療法のひとつに,矯正装置を使う方法があります。気道を拡げる目的で矯正装置を使用するのですが,結果として歯も動きます。逆に考えると,矯正治療は歯を動かすことで,気道の大きさなど,全身に影響を与えているのです。口は,息をしたり,食べたり,人間が生きていくためにとても重要な役割を果たしています。健康に生きていくために,健全な口を目指して一緒にがんばっていきましょう。
Vol.30 (H22年2月)
皆さんは、食べるときに苦痛を感じたことありますか?歯が痛くて噛めない、口内炎がしみる、顎関節症で口を動かすと痛い等、何かしら経験があるのではないでしょうか?食べることは毎日行うことですから、できるだけ苦痛がないようにしたいものです。
私は中学・高校生の頃、食べるのが遅く、昼食時に友人を待たせるのが苦痛でした。そこで、まだお腹はすいているのに、友人が食べ終わる頃を見はからって、私も食事をやめるようにしていました。一番食べ盛りの時期にこのようなことをしていましたので、身長170cm、体重52kg前後とやや不健康な体格でした。このような私も、今では人並みの速さで食べられます。振り返ってみますと、中学・高校生時代、トロンボーン演奏に熱中し、楽器を持っていないときも四六時中、唇や舌を動かして、イメージトレーニングをしていました。また、ガムを噛むと頭の回転がよくなる感覚がありましたので、家で勉強するときには、常にガムを噛んでいました。トロンボーンとガムで無意識のうちに口のトレーニングをしていたのです。その後、矯正治療を受け、かみ合わせもよくなり、上手に食べられるようになったのだと思います。
食べることは、毎日行うことです。したがって食べることに苦痛を感じると、毎日がつらくなります。短期間で治まるような苦痛であればよいのですが、私のように長期に及び、食べる量を減らす等の代償を払う事は、決して望ましいことではありません。皆様が食べることに苦痛を感じることなく快適に生活していけるよう、少しでも皆様のお口を健康にしていきたい、というのが私の目標です。
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