PAKUっ子に載せた内容です。
2006年1月号
食べる機能は,生まれた後で身につく能力です。毎日食事をして,少しずつ,舌やくちびるの使い方,かみ方などを身につけていくのです。通常は,誰でも自然に上手に食べる機能を身につけていきます。しかし,ちょっとしたことで乱れが生じます。乱れが生じると,くちびるの形や舌の動き,歯並びなどに影響を与えることがあります。
そこで食べるときのちょっとした動作を考えていきましょう。第1回目はスプーンを使った食べ方です。まず,実際にスプーンを使いながら,下記の項目をチェックしてみてください。
・スプーンはまっすぐに口の真ん中にはいる
・スプーンの2/3くらいが口の中へはいる
・スプーンを上下のくちびるではさむ
・上くちびるでスプーンの上のものを口の中へ取り込む
このようにしてスプーンから食べていればOKです。よく見かける間違った使い方は,「スプーンが斜めから口の中へはいる」「スプーンを口の奥まで入れすぎる」「スプーンを舌と上くちびるではさむ」「スプーンの上のものを歯で口の中へ取り込む」などです。お口の機能が未熟なうちは,お口のサイズにあった小さめのスプーンを使った方がよいでしょう(スプーンから飲むときには,使い方が異なります。この説明は後日します)。
毎日のちょっとした習慣です。正しい動きが習慣化されるように,日頃から気をつけてみましょう。
○ スプーンを上下のくちびるではさんでいますね。
× スプーンが口の奥まで入りすぎていますね。
2006年2月号
今回は「飲むときに気をつけることpart.1」です。コップから飲むとき,コップのふちを上下のくちびるではさんで飲んでいますか?このようにして飲んでいればOKです。コップを舌でむかえにいく,コップのふちを舌と上くちびるではさむ,コップのふちに舌が接触するのは,ちょっと未熟な飲み方です。赤ちゃんは舌と上くちびるで乳首をはさんでおっぱいを飲みますが,歯がはえてきて,離乳食が進むにつれて,少しずつ舌を前に出さなくなってきます。乳歯が生えそろった後でも舌を前に出してコップから飲んでいるようであれば,飲み方が赤ちゃんのまま,あまり成長していないのかもしれません。このような場合は,上下の歯をかみ合わせてから,コップを上下のくちびるではさんで飲むようにしてみてください。きっと,少しずつ舌が前にでなくなってくると思います。毎日のちょっとした習慣です。正しい動きが習慣化されるように,日頃から気をつけてみましょう。
○ コップのふちを上下のくちびるではさんでいますね。
× コップを舌がむかえにいっていますね。
2006年3月号
「飲むときに気をつけることpart.2」です。皆さん,「牛乳ひげ」って知ってますか?コップから牛乳を飲むと,上くちびるのあたりに牛乳の白いあとがつきますね。あれのことです。では,皆さんが牛乳を飲むとき,「牛乳ひげ」はつきますか?このひげがつけば,あなたの飲み方は大丈夫。大切なことは,上くちびるに飲み物を接触させて,上くちびるを飲み物でぬらしながら飲むことです。くちびるに飲み物が接触すると,くちびるから飲み物の情報が伝わり,呼吸と協調しながらお口の中へ入れる量などを調節するようになります。図のように,口を開けたまま飲み物を口へ流し込んだり,ペットボトルの飲み口全体をお口の中へつっこんで飲んだりすると,上くちびるに飲み物が接触しませんので,気管の方へ飲み物が流れていったりして,むせたり,せきこんだりする原因になります。時にはこのような飲み方をしてもよいのですが,このような飲み方が習慣化されてしまうと,歳をとって筋力が衰える頃に,上手に飲み込めない,という状況になってしまいます。小さい頃からの習慣はとても大切です。家族みんなで「牛乳ひげ」チェックをしましょう。
× ペットボトルの飲み口全体を口の中へ突っ込んでいますね。
× 上くちびるに飲み物が接触していませんね。
2006年4月号
皆さんは,ウズラのゆでたまごを食べるとき,一口で食べますか?それとも前歯でかみ切って食べますか?ほとんどの方は,一口で食べているのではないでしょうか。ではニワトリのゆでたまごはどうでしょう?一口でも食べられそうですが,ほとんどの方は,前歯でかみ切って食べるか,食べやすい大きさに切ってそれを一口で食べていると思います。もしダチョウのゆでたまごを食べることになった場合,どうでしょう?まさか一口で食べられるとはだれも考えませんよね。
大人は一口でどれくらいの量・大きさのものを口へ入れるか,瞬時に判断して食べています。子どもは成長とともに,その能力を少しずつ身につけていきます。この能力は,自分自身で前歯でかじりとって食べることにより身についていくと考えられています。何でも子どもの食べやすい大きさに切って与えると,子ども自身は「食べ物は何でも一口で口へ入れるもの」と思ってしまい,自分の一口量を判断できないまま成長してしまうかもしれません。適切な量の食べ物が口の中へ入ることによって,上手にかんで飲み込めるようになります。食材は少し大きめにして,できるだけ前歯でかみ切って食べるようにしてみましょう。
○ 前歯でかみ切って食べていますね。
× 一口でほおばりすぎですね。
2006年5月号
先日,家族で食事をしているとき,うちの子どもが図のように頭を上に向けながら食べ物を口へ入れているのを発見しました。とても行儀の悪い食べ方のような気がして,すぐに注意しました。しかし,思い起こせば私も小さい頃,糸こんにゃくなどをこのように上を向きながら食べていた記憶があります。そして母親に注意されたのですが。。。子どもって,なぜかふざけて食べてみたくなるようです。
しかし,上を向いて食べると,前歯でかみ切ることなく,食べ物が口の奥へ落ちていってしまいますので,行儀だけでなく,食べ方としてもあまりよいとはいえません。食べ物をくちびるに接触させながら前歯でかみ切って口の中へ取り込む動きはとても大切で,このようにして食べることにより,奥歯でしっかりかんで上手に飲み込む動きが引き出されるのです。
一度,家族で食事をした時に,お互いがどんなふうに食べているかを観察してみてください。口への取り込み方や,どれくらいのものを一口で口の中へ入れるかなど人それぞれで,とてもおもしろいと思いますよ。
○ 前歯でかみ切って食べていますね。
× 食べ物がそのまま口の奥へ落ちていきそうですね。
2006年6月号
「1歳を過ぎてもほ乳瓶がやめられません。早くコップに切り替えたいのですがどうすればよいです か?」という質問を受けました。コップから飲むというのは,実は,とても高度な協調運動なので,そう簡単に身につくものではありません。離乳食のように少しずつステップアップしていき,徐々にできるようになる動きなのです。
まずは,スプーンで飲む練習から始めてみてはいかがでしょうか?スプーンのふちを下くちびるの上にのせ,上くちびるが降りてくるのを待ち,上下のくちびるでスプーンのふちをはさむようにして飲ませてみてください。この時,舌の上にスプーンをのせないこと,上くちびるを飲み物でぬらしながら飲ませることが大切です。また,スプーンを口の奥へ入れすぎないよう,スプーンを横にして使った方がよいでしょう。そして,スプーンを口からはなし,口の中に入った飲み物を飲み込むまでくちびるが閉じていることを見ていてあげてください。最初は,飲み物をこぼしたり,スプーンのふちをかんでしまうなど,うまくできないこともあると思いますが,少しずつできるようになってきますので,がんばってやってみましょう。
○ スプーンのふちを上下のくちびるではさんでいますね。
× スプーンが口の奥へ入りすぎですね。
2006年7月号
「離乳食」っていつ始めるのがよいのでしょうか?一般的には5〜6か月頃といわれ
ていますよね。でも子どもの成長はいろいろです。できれば離乳食を食べられるお口
の準備ができているのかを見たいものです。
子どものお口のまわりを指でさわってみてください。指の方向へ顔を向け、お口へ
取り込み、吸う動きがありますか?この動きは、赤ちゃんがおっぱいを吸うために生
まれつきもっている能力で、無意識に行われます。この動きは生まれたあとで少しず
つ弱まっていき、5〜6か月頃にほぼなくなります。この時点が、離乳食開始の目安
です。この時点より早く離乳食を開始すると、おっぱいを吸うお口の動きが無意識に
行われるため、上手に食べる事ができないのです。
子どもの成長はいろいろです。子どものお口の動きをじっくり観察しながら、あせ
らず、ゆったりとした気持ちで離乳食を進めましょう。
→→
このような動きが残っている場合、離乳食を始めるにはちょっと早いようです。
2006年8月号
離乳食に,初期・中期・後期などのステップがあるのは,ご存じですよね。これらの時期は何を基準に決めていますか?多くの場合,月齢で考えられていますが,できれば子どもが離乳中期や後期にふさわしい食べ方(口の動き)をしているのかを見てあげたいものです。
離乳中期は,くちびるを使って食べ物を口の中へ取り込み,舌を口の天井部分に押しつけてすりつぶす動きを身につける時期です。舌ですりつぶしている時,くちびるは左右同時に横にひかれるような動きをしているはずです。離乳後期は,食べ物を前歯でかみ切って口の中へ取り込み,歯ぐきでかむ動きを身につける時期です。歯ぐきでかんでいる時,くちびるは左右どちらか(かんでいる側)に引っぱられるような動きをしているはずです。
子どもたちは,どのような口の動きをして食べていますか?我が子をじっくり観察し,ついでに友人の子どもなども観察してみてください。きっといろいろなことが見えてくると思いますよ。
離乳中期の動き:くちびるが左右同時に横にひかれていますね。
離乳後期の動き:くちびるがかんでいる側にひっぱられていますね。
2006年9月号
子どもは,いつになったら大人と同じ物を食べられるようになるのでしょう?離乳完了期?その頃になれば,多少は大人と同じ物を食べられるかもしれません。しかし,子どもの口の中をよく見てみてください。奥歯ははえていますか?
乳歯は,上下あわせて20本あります。離乳食を完了する1歳過ぎには,食べ物をすりつぶす働きをする臼歯がまだはえていないことが多く,1歳半頃にようやく第一乳臼歯(図の奥から2番目の歯)がはえてきます。この歯がはえるまで,子どもは歯ぐきでかんでいるのです。では,第一乳臼歯がはえたら大人と同じ物が食べられるのか,というと,第一乳臼歯はとても小さいため,まだまだ大人と同じ物をかむことはできません。2歳半頃に第二乳臼歯(図の一番奥の歯)がはえてきて,ようやく大人と同じ物がだいたい食べられるようになるのです。
歯のはえる時期や食べる機能の発達はとても個人差が大きいです。子どもの口の中や動きをよく観察してみましょう。
奥から2番目が第一乳臼歯、一番奥が第二乳臼歯です。
2006年10月号
これまで,子どものお口の動きの話をしてきましたが,これを読んでいる大人の方の口の動きはどうでしょうか?自分より子どものことが大切だから自分たちはどうでもよい,と考えられていませんか?そんなことはありません。我々大人の口の動きってとても重要なのです。
子どもは,いつもそばにいる人の食べ方,話し方などを模倣する事で,同じような口の動きを身につけていきます。従って,親がきれいな食べ方をしていると,子どもの食べる姿まで美しくなっていきます。また,食べるときの雰囲気も大切で,親が楽しそうにおいしそうに食べていたら,子どもも,そのときに食べているものがおいしく感じられるといわれています。
「子は親の鏡」といいます。我々大人も,自分の食べ方に注意しながら,楽しい雰囲気で食事するように心がけたいものです
大人も、自分の食べ方に注意しながら、楽しい雰囲気で食べましょう。
2006年11月号
食べたり飲んだりするときには,普通,座りますよね。私は子どもの頃,「ドラえもん」にでてくる「のび太」のまねをして,寝そべっておやつを食べてみたことがあります。行儀が悪いと,母親にとても怒られたのですが。。。しかし,とても食べにくかったのを覚えています。
食べるときには,口の前の方に入った食べ物を,舌の力で口の奥の方へ送り,飲み込みます。あお向けで寝ながら食べると,重力の力で食べ物は勝手に口の奥の方へ落ちていってしまいますので,口の中で食べ物を処理するときがなくなってしまいます。口を使わずに飲み込むだけになってしまうのです。
乳幼児期は,口の中で食べ物を処理する動きを身につける大切な時期です。良好なお口の発達を促すためにも,子どもの体を起こした状態で食べさせるようにしましょう。
○ 体を起こした状態で食べていますね。
× 寝た状態ではとても食べにくそうですね。
2006年12月号
「健康なお口」って,どんなお口だと思いますか?むし歯がないこと?歯並びがきれいなこと?私の考える健康なお口とは,「おいしく食べられるお口」「楽しくコミュニケーションできるお口」です。もちろん,むし歯がない方がおいしく食べられるでしょうし,歯並びがきれいな方が楽しくコミュニケーションするには有利かもしれません。しかしここで忘れてほしくないのが,お口の動きです。いくらむし歯がなくても,きれいな歯並びをしていても,お口がしっかり動かなければ,おいしく食べられないでしょうし,楽しくコミュニケーションできないでしょう。何より,おいしく食べられる人生,楽しく笑いながらおしゃべりできる人生って幸せだと思いませんか?
この1年間,子どもたちのお口が健やかに育っていくことを願いながら,お口の使い方を中心にお話ししてきました。子どもと過ごす日常生活の中で,ふと思い出して,実践していただければ幸いです。
PAKUっ子の連載、最終回です。
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