皆さんは、毎日歯みがきをしますよね。では、何のためにみがいているのでしょうか?むし歯や歯周病にならないため??確かにそのとおりです。しかし、むし歯や歯周病にならないために歯があるわけではありませんよね。歯は、おいしく食べるためにあるのです。
1本1本の歯があって、それが数本並んで歯列になり、歯列が上下でかむ事でかみ合わせができあがり、そのかみ合わせが周りの筋肉等によって動かされることで食べる動きになっていくのです。
私は、矯正歯科を専門にしている歯科医師です。矯正歯科というと、見た目をきれいにする審美のイメージが強いと思いますが、歯は審美目的のためだけにあるのではなく、しっかりかんで食べるためにある大切な器官です。
私は昔から継続して、「食べる機能と歯並び・かみ合わせとの関係」について研究しています。そこで矯正歯科治療によって歯並び・かみ合わせをきれいにするとともに、食べ方まできれいにする事を私は目指しています。
歯並びの問題は自分で気付きますが、食べ方の問題は自分では気付きにくいかもしれません。そこでまず、あなたの食べ方をチェックしてみましょう。自分が当てはまる項目をチェックしてみてください。
食べ物をかむ時、上下の唇が離れている | はい |
食べる時に、たくさんほおばって、ほっぺたをふくらませてかんでいる | はい |
飲み込むときに、上下の奥歯が離れている | はい |
飲み込むときに、舌と唇が接触している | はい |
食べるのが、他人より遅い | はい |
食べる時に、ひんぱんにお茶を飲む | はい |
他人との食事が苦痛 | はい |
2006年に1年間、「天白子ネット」が発行している「PAKUっ子」に、「日常のちょっとしたお口の動き」の話を連載していました。こちらのページにその内容を載せていますので、皆さんも読んでみてくださいね。
←PAKUっ子に連載していた内容です。
「お口で こんな動き できるかな? 口の適応力向上トレーニング」を、2102年3月に出版しました。歯科の専門書として販売されていますが、一般の人たちにも理解できるよう、専門用語を極力使わずに解説しています。ぜひ、皆さんも読んでみてくださいね。 | |
上記の本が好評のため。2016年10月に「新 お口で こんな動き できるかな? 口の適応力向上トレーニング」という改訂版を出版しました。この本も、歯科の専門書として販売されていますが、一般の人たちにも理解できるよう、専門用語を極力使わずに解説しています。ぜひ、皆さんも読んでみてくださいね。 |
ー乳幼児期の食べ方の発達の話ー(大人の方の食べ方の話は下にあります。)
最近,お口の動きに問題があり,上手に食べられない子どもが増えてきています。例えば,あまりかまずに飲み込む子ども,お茶がないと飲み込めない子ども,食べるのが非常に遅い子ども,などです。実際,給食を食べるのが遅いために,学校に行けなくなった事例などもあります。
上手に食べられない子どもは,歯並びも悪くなってきます。歯には,いつも唇や舌,頬(ほほ)から力が加わっているのですが、上手に食べられない子どもは,唇や舌,頬の動きに問題があることが多いため,歯におかしな力が加わるためです。
また,食べ方は唇や口元の形にも影響します。例えば,下図に示すような上向きの唇になることがあります。上向きの唇が悪いというわけではないのですが,このような唇をしていますと,下唇を上によけいに持ち上げないと口を閉じることができませんので,いつも口が開いた状態になってしまいます。
食べ方は,哺乳・離乳期から身についていく機能ですので,哺乳・離乳期から正しい食べ方を身につけることが大切です。
正しい食べ方を身につけるためには,どうしたらよいでしょうか?
ここからは,あくまで理想のお話をします。なかなか,こんな理想通りにはいきませんので,知識としてもっておいていただき,ふと思い出したときにでも実践してもらえれば,と思います。
まず,哺乳です。この頃から,子どもは舌や唇の動きを少しずつ身につけていきます。できれば,もっとも自然な形の母乳で育てるのが一番だと思いますが,それができない方もいらっしゃるでしょう。そのような場合も,できるだけおっぱいに近い形の人工乳首を使うべきだと思います。ただおっぱいの形に似せてあるだけでなく,赤ちゃんの飲み方まで考慮されたものが,いろいろと研究され販売されていますので,そのような人工乳首がよいと思います。
生後2-3か月になると,指しゃぶり始めたり,いろいろなものをお口へもっていくようになります。これは,お口がいろいろな刺激を受けて成長する重要なステップです。汚いからとか,危ないから,といって,やめさせないようにしたいものです。
多くの育児書では,生後6か月が離乳開始時期と書かれていますが,子どもは様々です。お口から食べられる体になっているのかを見るようにしたいものです。首はすわっていますか?探索反射(ほっぺた等をさわると,お口がそっちの方を探す反射),吸啜反射(お口に指をもっていくと,チュッチュ吸う反射)は消えていますか?また,食への興味がでてくると,よだれもでてくると言われています。
離乳初期では,深さの浅いスプーンを使って,上唇でスプーンの上のものを取らせ,そのままゴックンと飲み込む動作を覚えてもらうことが大切です。まだこの時には上唇があまり下に動きませんから,あまり深いスプーンを使うと,上手にスプーンの上のものを取ることができません。
離乳中期では,少し形のあるものを与えて,舌で押しつぶして飲み込む動作を覚えてもらいます。我々大人も,食事の時にちょっと意識すればわかりますが,上下の歯で噛むと同時に,舌を口の天井部分にこすりつけてすりつぶしています。
離乳後期では,歯ぐきでつぶして飲み込む動きを身につけてもらいます。まだすりつぶすための奥歯は生えていませんので,歯ぐきでつぶせるくらいの食べ物を与えることが大切です。また,自分で食べたいという意欲がでてきたら,手づかみで食べようとしますので,それは,できるだけやらせてあげてください。周りが汚くなるので,嫌がるお母さんが多いのですが。。。
離乳完了ですが,私は,第一乳臼歯がかみ合うくらいの時期で良いと思っています。早い子では1歳過ぎくらい,遅い子でも1歳半くらいまでにはこの歯がかみ合ってきます。写真の図は第2乳臼歯まで生えていますが,第一乳臼歯というのは,写真の奥から2番目の歯です。1歳過ぎても母乳を与えていると虫歯になりやすい,といわれていますが,私はだらだら与えなければ大丈夫ではないかと思っています。
その後も、まだ大人と同じお口ではありませんので、大人と全く同じものを食べるのはちょっと無理があります。したがって、その後も食べる力を身に付ける練習を続けていくイメージです。
この時期には,自分で食べるという意欲を身につけること,自分の一口量を身につけること,が大切です。一口分を切って与えたりすると,多くても少なくても,それを一口で処理しようとしますので,一口量が身についていきません。自分で持って,自分でかみ切って食べることが大切です。お母さんとしては,なかなか大変だと思いますが。。。
この時期に,よくかむ方がいいのですか,と聞かれることがあります。この時期には,まだすりつぶすための奥歯は第一乳臼歯しかありませんので,あまりかめません。第二乳臼歯が生えてくると自然によくかむようになっていきます。ただ,先程お話しした離乳のステップが飛んでいる場合などは,かまずに丸飲みするようになることもあります。全くかまずに丸飲みしているときには,やはり多少はかむように注意した方が良いかもしれません。
大きなものや硬いものを食べるのを嫌がるのですが,と言われることもあります。この時期には,第一乳臼歯しかありませんので,大きくて硬いものは食べられなくて当然です。あまり無理して食べさせると,逆に丸飲みの癖がついてしまうかもしれません。
この時期のポイントとしては,丸飲みの癖をつけないことと,一口量を身につけることです。
またこの時期から,食事の時間や寝る時間等の生活リズムを身につけることも大切です。食欲のわいたところで食べることが,楽しく食べる気持ちを育てる第一歩です。父親の帰りが遅いなど,なかなか難しい面もあると思いますが,できる限りがんばりましょう。
だいたい3歳くらいまでに,上下の第二乳臼歯が咬み合います。この歯がかみ合って,ようやく大人に近い食事ができるようになります。そしてこのお口で,いろいろな食べ物を経験していき,どれくらいかめばよいのか等を身につけていきます。
ここまでの話は,あくまで理想です。子育てがそんなに理想通り行くはずはありません。
そこで,一番覚えていただきたいのは,食べるのは楽しい,ということです。いつも小言を言われながら食べると,食事もおいしくなくなります。何よりも楽しく食べる気持ちを忘れないでください。
また,食べる力の発達にも個人差がありますので,あせることなく,長い目で見ていった方が良いと思います。
ちょっとした知識とたっぷりの愛情をもって,子育てを楽しみましょう。
ー大人の方の食べ方の話ー
矯正歯科治療を希望して来院される大人の方の中に、口の動きにも問題を抱えている方が増えているように感じます。
話を聞いてみると、「食べこぼすことが多い」「食べるのがとても遅い」「硬いものは苦手」「普通の食事だと食べるのが疲れる、苦痛」など、食事に関していろいろな困り事を持たれていたりします。(高齢者ではなく、20歳代、30歳代の大人の方で、このような訴えが出てくるのです。)
上手に食べられない方の多くは、口の動きに問題を抱えています。舌や唇・頬などの位置や動きに問題を持っているのです。
このため、舌や唇・頬などから歯におかしな力がたくさん加わり、ますます歯並び・かみ合わせが乱れてきたります。
歯並び・かみ合わせと、食べ方などの口の動き、これらの間には密接な関係があるのです。
そこで、矯正歯科治療で歯並び・かみ合わせを治すとともに、口のトレーニングで口の動きも整える必要があります。
きれいな歯並び・かみ合わせと、良好な口の動き、両者をきちんと調和させる必要があるのです。
上手に食べられない大人の方の多くは、舌を上あご(口蓋)にきちんとつけて飲み込めない、きちんと奥歯で噛めない、ように思います。
そこで、舌を上あご(口蓋)にきちんとつけて飲み込めること、奥歯でしっかり噛めること、を目指して、ひとつずつステップを踏んで練習していきます。
これまでの人生でたくさん食事をしてきていて、すでに今の動きが癖になってしまっていますので、ちょっとの練習で簡単にできることではありませんが、少しずつ段階を踏んで練習していくことで、少しずつ上手に食べられるようになっていきます。
私(院長)自身も、食べ方に問題を抱えていましたが改善しました。
あなたもきっとよくなっていくと思います。
食べるのは楽しいと思えるように、おいしく楽しく食べられるように、一緒にがんばりましょう。
私(院長)は、歯並び・かみ合わせと食べ方の関係について、下記のような学術論文を書いています。(インターネット上に公開されている論文に関しては、リンクしています。興味のある方は読んでみてください。)
Fujiki T, Deguchi T, Nagasaki T, Tanimoto K, Yamashiro T, Takano-Yamamoto
T. Deglutitive tongue movement after correction of mandibular protrution
A pilot study. Angle Orthod. 2013; 83: 591-596.
Fujiki T, Inoue M, Miyawaki S, Nagasaki T, Tanimoto K, Takano-Yamamoto
T.Relationship between maxillofacial morphology and deglutitive tongue
movement in patients with anterior open bite. Am J Orthod Dentofacial
Orthop. 2004 Feb;125(2):160-7.
Fujiki T, Takano-Yamamoto T, Tanimoto K, Sinovcic JN, Miyawaki S, Yamashiro
T. Deglutitive movement of the tongue under local anesthesia. Am J Physiol
Gastrointest Liver Physiol. 2001 Jun;280(6):G1070-5.
Fujiki T, Takano-Yamamoto T, Noguchi H, Yamashiro T, Guan G, Tanimoto K. A
cineradiographic study of deglutitive tongue movement and nasopharyngeal
closure in patients with anterior open bite. Angle Orthod. 2000 Aug;70(4):284-9.
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